本沢温泉~しらびそ小屋~稲子湯
【登った時期】2023年7月中旬
【同行者】1名
本沢温泉宿泊と日本最高所の露天風呂、、とアブとの死闘
登頂を目標としない初めての八ヶ岳歩き。
根石岳での大展望に満足し、白砂新道をたどって本沢温泉へ激下り。
膝をがくがく大笑いさせながらたどりついた本沢温泉ではくつろげる個室とすばらしい温泉、そしてアブとの出会いが待っていた。
本沢温泉の部屋は新館の角部屋個室。
座布団や座卓もあり、山小屋というより旅館の和室。
テラスもついていて、昨夜の小雨で湿ったままのテントやらなんやらを干したり便利。
内湯「苔桃の湯」は24時間入れるので夕食前、寝る前、朝と何度も入った。
褐色のとてもいいお湯にのんびり浸かっていると、窓の方になにやらうごめくものが。
細長いものがすうっと、、蛇だ。
蛇は変温動物だから、この熱めの湯に落ちたら茹ってしまうのでは!
固唾をのんで見守る中、蛇は窓際をゆっくり移動し隣接する男湯に通じる壁の隙間に消えて行った。
山の中の宿ならではの光景(なのか?)を満喫。
翌朝は朝食をすませ下山の前に露天風呂「雲上の湯」へ。
混浴だが水着着用可能なので、水着の上にウェアを着こみ、風呂までの道はしっかり登山道なので足元も登山靴。
宿のご主人らしき人に「露天風呂に行ってきます。」と声をかけると
「そろそろアブが出てくる時間だから気をつけて」とのお告げがあった。
アブは水の近くが好き。
晴れが好き。
早朝はいないが太陽が昇りしばらくすると増えてくる。
とのことで、もっと早起きして朝食前に行っておくべきだったか、と後悔するも後の祭り。
アブも大好き私も大好きなキラキラ快晴の下、露天風呂へ。
小屋から露天風呂へは昨日夏沢峠へ登った道を5分以上10分未満といったところ。
【露天風呂】への道標に従ってしばし進むと浴槽が見えた。
幸運なことに誰もいない。
これが日本最高所の露天風呂!
さっそく水着になってするりとお湯へ。
硫黄臭ぷんぷんの白い湯と絶妙な湯加減。
なんたってこの開放感。
空気も澄み渡り朝風呂最高!
友人と二人で貸切状態のお湯をどれくらい堪能していただろうか。
小屋番さんのお告げ通り、遂にこの幸せを打ち破るあいつが現れた。
日本最高所の露天風呂で遂にアブに襲われる
実はアブというものをじっくり見るのは初めての私。
いざとなったら蚊と同じようにたたき殺せるのでは?と思っていたが、襲い来る姿を目の当たりにしてそんなの甘い妄想だったことを悟る。
蜂と大きなハエの間みたいな想像より巨大なその姿。
これを素手でたたき殺すなんて無理!
頼りのオニヤンマ君も虫除けスプレーも効かぬ半裸の状態でアブに襲われる私達。
さきほどまで静謐を楽しんでいた秘湯はアブとの死闘の場に。
やけくそになってざばっと掛けた湯が奇跡的に命中。
更に湯をお見舞いすると遂に落下して湯に浮かぶ。
「一匹仕留めた!」
「でかした!でもきりがないね、退散しよう」
あきらめて退却準備にかかるが、お湯から出て服を着るのが一苦労。
温泉に守られていた下半身を敵の前に晒さなければならない。
ちくっ!
「やられた!」
遂に無防備な背中に強烈な一撃を食らう。
更に右腕にもう一撃。
友人も一発やられた様子だが、なんとか被害は最小限で這う這うの体で逃げ出した。
「這う這うの体」って言葉、生まれて初めて使った気がする。
虫除けスプレーをふっていたウェアを着たせいか、
おにやんま君つき帽子をかぶったせいか、
単に水辺から遠ざかったせいか、、
露天風呂から遠ざかるとアブの追跡はなくなった。
アブというのは、皮膚を食いちぎってにじみ出る血を啜るらしい。
なんという凶暴なやり口だろうか。
しかし、荒々しすぎて噛まれた瞬間に追い払われるので、おそらく血はほとんど啜れていない筈。
ざまあ!と多少は溜飲が下がる。
「溜飲が下がる」って言葉、生まれて初めて使った気がする。
本沢温泉に戻り、噛まれた背中と腕の2か所を洗って薬を塗った。
しらびそ小屋経由での歩きやすい下山道
気を取り直して、、気持ちよく晴れたキラキラの森の中を下山開始。
しらびそ小屋経由で稲子湯へ下りる予定。
ほとんどがよく整備された歩きやすい道だけど、数か所狭くて片側が急斜面の道も。
昨日は雨上がりの曇り空の下しっとりした中を歩いたが、今日は木々の間から差し込む光を楽しみながら歩く。
歩きやすい美しい森が続く。
行き交う登山者もほとんどいない、静かな森は幻想的ですらある。
ぬめってかっとしたきのこ発見。
森歩きをたっぷり堪能して、みどり池到着。
落ち着いたやや渋めの緑に囲まれた池の向こうには明るく光る硫黄岳がのぞいている。
水鏡にも硫黄岳。
しらびそ小屋で冷えた炭酸水を購入し、湖畔でゆっくりお昼休憩。
食後は稲子湯へ下りてゆく。
最初はやや急な下りだったが
じきにゆるやかな道になり
標高をどんどん下げるにつれ苔の森ともお別れ。
シダが縁どる平坦な道に変わっていく。
アブに無念の一撃を食らう
散歩道風になってきた道。
アブのことをすっかり忘れ、ところどころに咲いている花を愛でのんきに歩いていた私。
▼名前はわからないけど、凛とした風情の一輪。
その隙を突くかのように突然アブが現れ、右腕に襲い掛かった。
アブだ!と思った時は既に遅く、肘のちょっと下辺りをぶちっと噛み千切られる音が聞こえた(ような気がした)
しかも長袖ウールのカットソーの上からである!
あわてて追い払うも、しつこいのなんの。
なんとか追いやって袖をまくってみると、ぶちっと聞こえたのは気のせいではなく、赤い血がにじむ痛々しい噛み跡が。
アブは薄手のウール位平気で貫いてしまうらしい。
半裸状態の風呂で噛まれたのはあきらめがつくものの、ここまで下りてきて不意をつかれるとは口惜しい。。
そういえば油断して虫よけスプレーを追加していなかったっけ。
しゅっしゅっと降りなおす。
最後にアブに負けた悔しさをかみしめながら林の中をずんずん。
稲子湯登山口。
この近くにバス停があり、本数は少ないが稲子湯へ便がある。
あわよくばと思っていたが、間に合わなかったため更にてくてく。
登山口まで下りてきたので気が抜けてしまったせいか、ここからが結構遠く感じた。
舗装路にそろそろ疲れてきた頃に、どちらを選んでも稲子湯へ続く分岐。
【登山道コース】を選んで再び林の中へ。
しらびそ小屋から2時間弱。
やっと山小屋風の稲子湯旅館に到着した!
汗を流して着替えたら小海町営バスでJR小海駅へ向かい、初めての八ヶ岳歩きは無事に終了した。
美しい静謐な苔の森と温泉の記憶を塗りつぶすほど濃いアブの思い出と共に。
アブ後日談
結局3か所アブに噛まれてしまった私だが、最後に長袖の上からやられたところが一番大きく腫れてしまった。
最初の2か所はすぐに箇所を洗い流せたせいだろうか。
腫れの程度によっては跡が残ると聞くので、帰宅後念のため皮膚科を受診した。
「赤味がひいて茶色くなるまでは薬を塗り続けてください。痒くなくなったからと途中でやめてしまうと跡が残ることがあります」と脅され注意を受けて薬が処方された。
かゆみはすぐ収まったが、赤味がきえるまでは薬をきちんと塗ったせいか、いつの間にか跡は残らずきれいに治っていた。
八ヶ岳を思うといの一番にアブの記憶がよみがえるが、静かな苔の森や素晴らしい温泉を楽しみにまた登りたい。
今度は厚手の長袖に身を包んでアブと対決したいと思う。