大雪山旭岳:幻想のカムイミンタラ
【登った時期】2021年7月下旬
【同行者】なし
幻想:現実ではない事物を、存在するかのごとくに思い描くこと
大雪山国立公園はあるけれど、大雪山という山はない。
ということを登山を始めてから知った。
大雪山。
なんと綺麗な名前でしょう。
1つの山ではなく、北海道中央部の山々からなる巨大なエリアが大雪山。
大雪山系ともよび、一帯は大雪山国立公園に指定されている。
その大雪山系に 温泉:登山= 6:4 くらいの気分で旅をした。
泊まってみたかった温泉をベースに山歩きを少し楽しむ温泉山旅。
私が歩けそうな旭岳、黒岳、緑岳、高原沼巡り、を予習しておき現地の天候次第で歩いてみることにした。
ロープウェイで一気に1594m
予習した山の中でも、大雪山の盟主にして北海道最高峰の旭岳にはぜひ登りたいと思っていたが、幸い旭岳温泉に滞在中天気の良い日があったのでピストンで登ることにした。
旭岳には【大雪山旭岳ロープウェイ】というたいそう素敵な乗り物があり、旭岳登山の拠点である旭岳温泉郷から一気に1594mの彼方へ運んでくれる。
(もちろん自分の脚で登りたい人のための登山道もある。)
私は全くストイックな登山者ではないので、使えるものは何でも使う。
という姿勢で山歩きを楽しんでいる。
ロープウェイ、リフト、何でも来い!
むしろどんと来い!
というわけで、もちろんここ旭岳でもロープウェイに乗ることにした。
大雪山ロープウェイ乗り場は宿泊した湯元湧駒荘から徒歩15分ほど。
青空に映える旭岳の勇姿を眺めながら歩く。
時間が中途半端なせいか車も通らずのんびり。
車道の彼方に旭岳が輝いている。
ビジターセンターの駐車場までくるとさすがにたくさんの駐車車両だ。
そしてロープウェイ乗り場にもかなりの人が並んでいた。
登山者と観光客が半々くらい。
トップシーズンは朝6:30始発という登山者の味方の大雪山旭岳ロープウェイ。
それなのに、本日は朝食を宿でまったりとってからのため登山にしてはかなり遅めになってしまった。
ピストンなので油断したけどちょっと出遅れたか。
次の便になったらさすがに遅過ぎるなあ、、と心配したが、到着したロープウェイはかなりの大型。
並んでいた人たちがあっという間に吸い込まれていく。
なんと1度に101人を運べるらしい。
無事に乗り込み、約10分で旭岳五合目の姿見駅まで、
ばびゅーーんと連れてってくれる。
姿見駅では登山届を出し、登山路情報をチェック。
踏み跡が不明瞭との情報。
そして、さすが北海道。
ヒグマの文字が躍る。
姿見駅から旭岳頂上までは登山者も多くヒグマは少ないと聞いていたが、やはり地図に点在するヒグマの文字。
駅から出ると標高1600mにして既に森林限界を超えた世界が広がっていた。
さすが北海道。
姿見駅付近はきれいに整備された木道だ。
本格的な登山道は【姿見ノ池】から始まっており、そこまでは観光客もなんとか歩ける程度に整備された散策路が整備されている。
散策路【姿見の池周遊コース】は時計回り、反時計回りに姿見ノ池まで行って1周1時間程度。どちらから歩いても大きな違いはないようだが、少しでも早く行けそうな右側の道を選択。
木道はごく一部ですぐにむきだしの土の道。
岩が転がっていたりはするがさほど難路ではないのでスニーカーでも歩けそう。
駅から出たらいきなり広がる雄大な景色と観光客も歩ける散策路。
室堂にちょっと似ているが、ここには宿泊施設はないので何が何でも最終ロープウェイで下りなければならない。
左右にお花畑の広がる散策路をたどり、30分ほどで姿見ノ池に到着。
その名の通り旭岳の姿と地獄谷の噴煙までも美しく映し出している。
少しだけ登ってきたのでロープウェイの駅が見える。
その向こうに見渡せる雄大な景色もすべて国立公園なのだろうか。
大雪山国立公園は日本で最も広い国立公園で、面積は約23万ha!
と言われてもぴんとこないが、
神奈川県の面積に匹敵すると聞けばびっくり。
さすが北海道。
池のほとりには旭岳石室があるが、緊急避難用なので宿泊はできない。
姿見ノ池から本格的な登りを淡々と
ここからが本格的な登山道のはじまりだ。
左に煙をあげる地獄谷を見ながら登る。
巨大火口の淵を登っていく感じになるのかな?
さっきまではお花畑の間を歩いていたのに、ここからは草木のない道をひたすらじぐざぐジグザグと登っていく。
ものすごい急登というわけではなく浮石に気をつければ難しい道ではないが、火山礫や砂でザレザレしており滑りやすい。
淡々と登っていると、朝はあんなに晴れていた空に雲がどんどん増えてきた。
頂上付近はもう見えない。
あいかわらず砂と火山礫の道。
姿見駅の登山情報に記載されていた通り、踏み跡は至る所についていて不明瞭。
危ないところにはロープが張られペンキ印があるが、それ以外はどこを歩いていいのかよくわからないが故にどこを歩いてもよさそうなので、幅を最大限使ってじぐざぐ歩く事にする。
スキー初心者がターンできなくてゲレンデの端っこまで行っちゃう時みたい。
ところどころに巨大な岩があるので意外と休憩には困らない。
観光気分のまま登山道に突入したっぽいハイカーも多く、岩陰でへたっている人もいる。
私も水分休憩しながら振り返ると下界もかなり霞んできている。
せっかくの晴天だったのに、やはり出発が遅すぎたなあ、と反省。
山幅最大限作戦で足に負担をかけず登っていると、
遂に見えたひときわ際立つ四角い岩。
あれが噂の【偽金庫岩】というやつかな。
このあたりから道の様相が少し変化。
巨大サイズの岩の間をごりごり登って行く。
土の色も赤く変わってきた。
【偽金庫岩】まで来た。
本物の【金庫岩】は頂上までの良き目印になるのだが、天候の悪い時にこの偽金庫岩にだまされて道迷いする登山者が多いらしい。
間違いが続出したのか、ロープが張られていた。
それにしてもどこのどなたか存じ上げないが、これを【金庫】と名付けるセンスはよくわからない。
よっぽど金に目がくらんでいたのかお金持ちなのか。
やっぱり豆腐岩かサイコロ岩でしょ。
偽物から数分。
おお、
これが本物の【金庫岩】だな。
金庫岩から道は右側にカーブし最後の登り。
大きな岩は姿を消したが、とにかく足元が滑りやすくて非常に歩きにくい。
ずっるずると登っていく。
先ほどまでの道より傾斜がきつく、あまりに滑るので写真を撮る余裕なし。
「3歩進んで2歩さがる♪」は言い過ぎだけど、10歩進んで1歩さがるくらい滑るぞ。
滑りまくって動けなくなっている観光客風味ハイカーもいる。
滑りながら登ること十数分。
遂に平らかな部分に出た。
ここが山頂のようで、あちこちで登山者がお昼を食べたり写真を撮ったりしている。
てんとう虫まみれの旭岳山頂に到着
到着!
旭岳 標高2291mに登頂!
北海道最高峰だ。
あれっ?
旭岳標高は2291mだと思ってたのに山頂標識2290mと記されている?
*下山後に調べたら、2008年国土地理院により2,291mに改定された、とのことだった。
山頂標識にてんとう虫発見。
よく見るとまわりになぜかてんとう虫がうようよ。
なぜなのか。
よほどてんとう虫の生育に適しているのだろうか。
360度大絶景。
もちろん登ってきた反対側も見える!
標高2400mの世界とは思えない、柔らかな感じの眺めだ。
険しさを感じない大らかかつ雄大な山々が連なっている。
さすが北海道。
今回は断念したけれど、いつかは歩いてみたい黒岳への縦走路道標。
この道が黒岳に続いているんだなあ。
簡単な昼食を取ったら下山することにした。
雲はさーーっと流れて薄くなったかと思うとまた厚く立ち込めるの繰り返し。
すっきり晴れないのは残念だけど、ある程度の展望は楽しめたので良しとしよう。
そもそも午前中はずっと晴れていたいので、遅い時間に登り始めた自分の自業自得である。
登りに苦労したずるっずるの道を更に滑りそうになりながら下りて行く。
ただでさえ下りは苦手なので気合を入れるぞ。
雲の下に緑が見えるのでちょっとやる気が出る。
細心の注意を払いながらゆっくり下りる。
九合目あたりまで下りてきた。
ここからもまだまだ滑るが、急勾配ではないため少し気が楽だ。
登山道の幅も広くなってきたのえ、幅をいっぱいに使ってジグザグジグザク。
それにしても広い。
この標高でこんなに平らかな眺めが続いているのがやはりすごい。
しつこいけど、
さすが北海道。
右手に地獄谷の噴煙が見えてきた。
カムイミンタラは神々の遊ぶ庭♡ではない
右手に地獄。
左手には火山礫は混じっているものの緑のなだらかな丘陵が続く。
ゴールデンカムイでアシリパさんと杉元(と白石と尾形)が鹿のおなかの中で吹雪をやり過ごしたのはこの辺りだろうか。
大雪山のことをアイヌ民族は【カムイミンタラ】を呼ぶらしい。
現在では「神々の遊ぶ庭」なる訳が世に知れ渡っているが、
アシリパさんは
【カムイミンタラ】=【ヒグマがたくさんいるところ】
と言っていた。
おそらくアイヌ民族は
「ここって別世界じゃない?!咲き乱れる花々と青い沼が夢の様。
天上の神様たちがちょこっと遊びにきてもおかしくないよね。うふ」
などとぬるいことを思ったわけではなく、
「このへんヒグマめっちゃたくさんいるから注意しなはれや!」
くらいの注意喚起の意味で【カムイミンタラ】と呼んでいたのではないだろうか。
別世界的なファンタジー感あふれるイメージが吹っ飛ぶ【恐怖の庭】だ。
登山道の入り口付近から振り返ると、こんなところからも金庫岩がくっきり。
姿見の池まで戻ってきた。
ロープウェイ駅まではチングルマの咲き乱れるお花畑を通る。
登りは急いで通り抜けたので、帰りはゆっくりと眺めながら。
綿毛になったチングルマがふわふわと美しい。
花もいいけど、綿毛も幻想的で素敵。
確かにこういう光景を見ると
「神々の遊ぶ庭」とかいいたくなるのもわかる。
センスの良さが光るこじゃれた訳には【ベストオブ誤訳命名賞】を贈りたい。