命短し、歩けよたおやめ

体力なし筋肉なし経験なしのたおやめが老朽化と戦いながらはじめた登山の記録

真夏の大雪高原温泉沼めぐり_3:真実のカムイミンタラ

大雪高原温泉~ヒグマ情報センター~高原沼~ヒグマ情報センター_3

【登った時期】2021年8月上旬
【同行者】なし

真実:うそでないこと。偽りでないこと。また、そのさま。

そしてヒグマを目の当たりにする(ゴマ粒大)

鹿と別れて次に現れた沼には人がいた!
双眼鏡と望遠鏡で向こう側の斜面を観察しているヒグマ監視員の男性だ。
山で人に会ってこんなに嬉しかったのは初めてだ。

大学沼

由来:??

せっかく監視員さんに会ったのに由来を聞き損ねてしまった。
北大のヒグマ研究室がここでヒグマの行動観察してたから、、、とかだろうか。

ここは食事をしてもよい場所の一つだが、
「今日は高原沼の斜面でヒグマが行動しているので見られるかもしれません。ロープが張ってある監視員のところまでは行っていいですよ」
と教えてくれたので、そのまま進むことにした。

見晴らしの良いなんとなく果樹園ぽい斜面を続く道。

果樹園ぽい木にはたくさんの黄色い花が咲いていた。
花や木に疎い私だけど多分初めて見るはずの花。

後日GoogleLensで調べたら(便利な世の中になったものだ)、ウコンウツギという北海道から東北の高山に生育する高山植物みたい。

振り返ると花の向こうに斜面を観察する監視員さん。

左手に高根ヶ原がそびえる高原を登っていく

ずいぶん登ってきた。
あまりアップダウンを感じない道のりだったけれど大学沼から先は、ぐぐっと高度を上げる感じの登り道。

ちょっと息が切れてきたけど、可憐な花の間を登っていくのは悪くない。

咲き乱れるウコンウツギの中を歩き、今回訪れることのできる最後の沼に着いた。


高原沼

由来:?? おそらく高原にあるからだと思われる

雪が残っている斜面をそろそろと渡る。

雪を渡って少し登るとロープが張られていた。

ここが現在の沼巡りコースの折り返し地点。
監視員さんのところまでは行っていいとのことなのでロープを超えて進むと、監視員3名と先に入山したらしい男性登山者がいた。

ここで安心して昼食休憩。

今日はこちらの斜面でヒグマが1頭行動しており、雪渓の上でゴロゴロしたり茂みに入ったりしているそうだ。
デジカメ内の写真を見せてもらったが、雪渓上でだらーーんとくつろいでいるかのような様子が写っていた。

茂みに入ってしまったヒグマはなかなか姿を現さないので、そろそろ下山することにしようかと準備していると、、

「熊出てきましたよ!」

肉眼では豆粒、、いや、ど近眼の私には動くゴマにしか見えなかったが、

望遠鏡を覗かせてもらうと

いる

いる

いる!

羆がっ

雪渓の上を歩いてるっ

望遠鏡でガン見されていることを知ってか知らずか、ヒグマはあっという間に茂みの中に移動してしまった。

 

やはりアシリパさんの言う通り、

カムイミンタラはヒグマがたくさんいる所 だった!

カムイミンタラの真実を目の当たりにし、下山開始。
男性ハイカーは私が食事をしている間に下山したので、またぼっちだ。
背後で「女性一名高原沼から下山します」と報告してくれているのが心強い。

ウコンウツギの中をぬけていく。
高原沼のあたりは曇っていたが下山する方向は青空が戻ってきていた。

高根ヶ原を仰ぐ。
このずっと向こうに旭岳がそびえているはず。

この大雪山系一帯がカムイミンタラ。
ヒグマがたくさんいる所。

これからもちょこっとお邪魔させてもらえるよう、ルールを守った入山を心がけたい。

青空の下、緑と雪の白。
青い池まで輝いて、大好きな立山にちょっと似た光景。
紅葉の時期はきっととても美しいのだろうけど、やはりこの緑と青の世界が大好きだ。

大学沼まであっという間に下りてきた。
監視員さんにヒグマを見られたことを報告し、どんどん下る。

式部沼と蝦夷沼の間の小さな沼。
行きはあまり気にしなかったが、帰りは沼に向かって下りて行くので目に飛び込んでくる。
リーフレットには載っていないので名前はわからないが、名前なしの沼がまだまだたくさん点在しているのだろう。
高原沼めぐりコースの沼にはわりと「そのまんまやん」な名前がついているので、この沼も丸沼あたりか。
私ならひょっこり沼と名付けたい。

鴨沼にはやはり鴨はいなかった。

川沿いの道をどんどん下る。

緑沼まで帰ってきた。

少し風が出て水面が揺れているけれどやはり童話に出てくる夢の国みたい。
午前中よりも空が明るいせいか尚美しい気がする。

時間制限とヒグマの心配がなければ、ぼんやりとここで雲が流れるのを見ていたい。。

小休憩をとって歩いていくと、道の向こうから熊鈴の音。
いつもはちょっとうるさい熊鈴の音が身に染みる。
音の主はパトロール中の監視員さんだった。
入山時にレクチャーをしてくれた人である。
熊鈴って、近づいて来る気配が「安心してください、人間ですよ!」と教える効果もあるんだなあ。

芭蕉沼にちょっと立ち寄り。
やはり太陽に照らされるときれいかも。

木道の向こうに見えるのが緑岳だろうか。
山ってたいてい緑でしょ、と思っていたけど、

緑岳はなるほど、想像以上に緑である。

そして水芭蕉の中…背後の音にフリーズ

開けた場所が多い沼めぐりエリアを歩き終え、樹林帯に戻ってきた。
熊鈴は相変わらずしっかり鳴らしながらどんどん下りて行く。

小さい秋見つけた。
まだ8月になったばかりなのにやはり大雪山の秋は早い、早すぎる。

そして行きにもちょっと怖かった「水芭蕉密生ゾーン」を通り過ぎようとしたとき。

背後で

 

がさがさがさーっと大きな音がした。

 

まるで、

まるで、何か大きな生き物が水芭蕉の茂みから姿を現したような音。

その瞬間、私の足は止まってしまった。
フリーズしてしまったのだ。

ごっつい音をたてた割に、その後背後では何の音もしない。
それがまた恐ろしい。

鹿?
狐?

それとも・・・

 

私は木になった。

 

背後からは何の物音もしない。

静寂。

 

どれくらいの間、木になっていただろうか。
こういう場合、思っていたよりもずっと短いそうだからほんの数分だったのか。

遂に前進する決意をした。
まずは可能な限りのスローモーション動作で右手をクマスプレーホルスターに導き、体の前でいざという時の用意をする。

よし。

ゆっくりゆっくり前へ進む。

背後を振り返りたい欲望がこみあげてきたが、渾身の精神力を振り絞って我慢した。
もし振り返って目が合ってしまうのが鹿ならいいけど、ヒグマだったら終わりだ。

あまり体を揺らさないようにそろりそろりと前進し、カーブを曲がり更にしばらくはゆっくり進んだ。

ようやくそっと振り返ってみる。
曲がり角には何もいない。

あの角の向こうには何がいたのだろう。

 

その後はとにかく一心不乱に道を進んだ。
帰りに寄ろうと思っていた【のぞき地獄】もすっ飛ばす。

登山口の近くにそびえていた大木まで戻ってきて、やっと気持ちに余裕が戻ってきた。

大木の陰からヒグマ管理センターが見える。
ああ、帰ってきた。。

情報センターで下山の報告をし、きれいな空色の手ぬぐいを購入。

手ぬぐいを見ると【鴨沼】には鴨の絵が描かれている。
やはり鴨がいる(いた)のかも。

窓口にいた監視員の女性に先ほどの音の話をしたところ、

「鳥ではないか」

という意見だった。

鳥・・・ですか。

今日歩いている間、ほとんど鳥の声を聞かなかったし、鴨池にも鴨いなかったから、「鳥ではないか」と言われてもなんだかぴんとこない。

しかも、あの音が鳥ならかなりの怪鳥ではないだろうか。
ロプロスとは言わないけど、駝鳥クラス?

それとも怖い怖いと思うあまり、ささいな音に縮みあがってしまったのか。
幽霊の正体見たり枯れ尾花」ってやつ?

見てないけど。

音を聞いただけだけど。

★ ★ ★
この日の私のように「びびるあまりちょっとしたにもおびえる様子」を調べたところ、「風声鶴唳(ふうせいかくれい)」という四字熟語があり、おじけづくあまり風の音や鶴の声にも恐れおののく、という意味。
ひとつ賢くなった。
★ ★ ★

結局謎の音の正体はわからずじまい。

無事に下山できた事に感謝。

もしかしたらあの茂みには本当にヒグマがいたのかもしれない。

「人との距離を適切に保って」いるヒグマが。

追いかけたくなるという本能を渾身の精神力を振り絞って我慢し、私の背中をじっと見ていたのかもしれないね。