命短し、歩けよたおやめ

体力なし筋肉なし経験なしのたおやめが老朽化と戦いながらはじめた登山の記録

日本で一番高いところに立ってきた_6:本八合目の夜と下山道【富士山3776m】

本八合目で富士山2泊目の夜

【登った時期】2021年08月上旬
【同行者】なし

 

体力があまりなくて時間はわりとある私の【日本で一番高い山挑戦】はお鉢巡りもゆっくりできるように2泊3日の計画。

剣ヶ峰に立ち、お鉢巡りを終えて吉田口ルート本八合目に下りてきた。
本日はここで宿泊。

 

富士山2泊目の夜。影富士と広大な夜景

お鉢巡りを無事に終え本八合目トモエ館まで戻ってきた。
ゆっくりプランの私の2泊目の宿泊地だ。

中に入ろうとすると、すっとんで来た従業員にハンディ掃除機みたいなのでざっと全身の砂埃を吹き飛ばされた。
ストックと靴は大きめトートバッグみたいなのを貸してくれるのでそれに入れる。
七合目と違って砂への対策がしっかり実施されている。

違うといえば、同じトモエ館でも七合目の方は従業員一同青い法被を着て物腰も民宿のおじさん風。
こちら本八合目の方はもうちょっと殺伐としているというか臨戦態勢というか、レジスタンスかパルチザンのアジト感が漂っていた。
心なしか眼光すら鋭いような。

後で聞いたのだが、軽装で夜間に登って動けなくなる登山者が出ると山小屋から救助に行くことも多いそう。
表情が厳しく「いつでも来い」感が漂うのも頷ける。

砂埃を落とし、チェックイン手続きをして奥の宿泊場所へ通された。
蚕棚式の寝床がずらっと並ぶ。


私の場所は下段部分の角でなかなかの好立地。
予約の際、「個室はないけれど、早く着いた順に【シングルスペース】を割り当てます」と聞いていた通り、きちんと個人スペースが確保されている寝床だ。

七合目トモエ館のように完全な個室ではなく、蚕棚の下段部分だけれど、隣との間はちゃんと板張りの壁になっているのでほぼ個室とよんでいいと思う。
スペース横幅だけ比べれば七合目よりも広いし、個別の電灯とコンセントもあるのでゆっくり休めそうだ。
早く到着してよかった!

荷物は直に置かずに必ずフックにかけるよう説明を受けたので、ザックとストックをいれた袋は壁にかける。

カーテンがなぜか短いのが惜しい。

通常タイプの寝床。
ここも敷き毛布はすべてヒョウ柄なのが気になる。

食堂にも蚕棚方式の寝床が並んでいる。
トップシーズンにはここにも宿泊客がみっちり詰まるのでしょう。
この中も敷き毛布はヒョウ柄なのかが気になるところだ。

荷物を整理して落ち着いたところで、暖かいココアを購入して小屋前のベンチで休憩。
昨日のもっくもくの雲と違ううっすらした柔らかな雲が空に広がっている。


関東の人たちは
あれ三浦半島じゃない?とか箱根がどーたら、なんとか山がなんとかとかとかとか、、
大いにはしゃいでいた。
関西人にはピンとこないが、地理がわからなくても雄大な景色をぼんやり眺めるのはいい。このうるわしく霞んだ先に魔都東京があるなんて思えない。

ぼやーっとしていると、山中湖方面に大きな三角形の影が広がるのが見えてきた。

あれって、、影富士?

ちょっとぼんやりしているけれど、富士山の稜線が巨大な影をおとしている。
町ごと包む大きな大きな山の影だ。
あの影の中にいる人たちは「ああ、今自分は富士山の陰の中に入ってるなあ」とわかるものなのだろうか。。

小屋のご主人らしき人によると本八合目トモエ館は山梨県にあり、お隣の江戸屋は静岡県だそう。少しお話を聞かせてもらったが、静岡県をちょっとライバル視している感じが面白かった。

山梨側から登らせてもらった私は山梨の味方だよ!

それから「みんな寝ちゃうけど夜景もすごくきれいだよ!」とのこと。

本八合目トモエ館は須走ルートと吉田ルートの合流点にあるが、江戸時代から駿河と甲州の登山道の合流点はこのあたりだったらしい。

駿河と言えば清水の次郎長しか思い浮かばない。
そういえば娯楽時代劇で見た次郎長のライバル、黒駒の勝蔵は甲州の侠客じゃなかったっけ。
江戸時代の侠客から現代の山小屋まで富士山を舞台に競い合うライバル地域。
・・・そういうの嫌いじゃないなあ。

▼県境はこのあたり?

夕食はハンバークカレーをぺろりといただき、
翌日の朝ごはんとしてパンとペットボトルの水が配られた。

お勧めの夜景を見てみようと、寝る前にちょっと小屋前に出てきてみたら、
確かに素晴らしい!
夕刻は空を覆いつつあった雲もかなり薄くなり、星も煌めいている。

左奥の方の輝きは自信がないけれど、、甲府かな?
そして右奥、黄金色に輝く一帯が東京方面なのだろう。
うるわしい霞の彼方にやはり魔都東京はあった。

遥か彼方まで続く光の絨毯。
関東平野って広いなあ、と再び思う。

そして甲府(たぶん)から関東平野の遥か彼方までの夜景が、一気に見渡せるなんて。
いったい幾つの都道府県の夜景が見えてるんだろう。
山梨、神奈川、東京。埼玉とたぶん千葉も見えているよね?
山梨のすぐ向こうの長野、、は夜景はなくとも見えてはいるに違いない。
とにかく、なんと広大な夜景だろう。
さすが富士山。

素晴らしいけれどあまりの寒さにゆっくりは見ていられない。
震えあがりながら部屋にもどって布団に潜り込むも、七合目よりもかなり寒い。。
エマージェンシーキットに入れていた使い捨てカイロが、登山を初めて以来遂に役に立った!
これからも入れておくことにしようと決意しながら標高3400mの夜が更けていった。

富士山で見る2回目の御来光

カイロのおかげで寒さを乗り切った翌朝。
富士山から見る二回目の日の出を待ち受ける。
昨日は快晴だったが今日は少し雲がある。

広大な地平線から太陽が顔を覗かせる。

少し空に雲がある方が、表情があって美しいね。

今日は時間があるので長いこと眺めていたけれどダブル太陽にはならなかった。
八合目まであがってくると太陽は湖に映らないのかも。

茜色と黒の世界が青と白の世界へ変わり

眩しい白い光でいっぱいに。
新しい朝が来た♪

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朝ごはんのパンを食べたら下山開始。
スバルライン五合目へ5.8キロ!

下山道はルートを間違えて違う登山口へ下りてしまわないよう注意が必要。
ルート毎に道標が色分けされており、吉田ルートは黄色。

下山専用道は長い長い砂礫の道

この朝は非常に風が強かった。
トモエ館お隣の江戸屋の小屋前に張り巡らされたチベット仏教みたいな旗たちも、ハタハタハタッと音が聞こえそうなくらいはためいている。

小屋の従業員が小さい子連れの客に
「お子さんが飛ばされないように気をつけて」と声をかける。
「冗談じゃないよ。ほんとに飛ばされるから!」

飛ばされる?と思うところだが、昨日のお鉢巡りのことを思い出すとさもありなん。
小さい子供が風にあおられたら本当に危険。

江戸屋の横から下山道に合流し、昨日の続きをどんどん下っていく。
昨日のくっきりした光景と異なり、今日はちょっと霞んだ感じ。
これはこれで幻想的で美しい。

山頂方面を仰ぎ見る。

スバルライン五合目と須走五合目への分岐。
ここで間違えたら大変。
しっかり標識を見て進む。

ところどころに働く車たち発見。

下りが苦手な私だけど。ゆるくて整備された下山道はとても歩きやすかった。
快適過ぎて調子こいているとスピードが出過ぎて危険なので制御しながら、しかしリズムに乗ってどんどん下る。
ざっくざっくざっく。
ちょっと楽しい。

しかし油断禁物。
滑って尻餅をついている人は結構いたし、
脚がつったらしく大騒ぎしている欧米人家族。
登りの時ほどではないけれど、ところどころで座り込んでうつらうつらしているグループも。

あちこちに【落石注意】の注意書き。
落石を誘発しないよう気をつけて丁寧に歩こう。

下りはとにかく長い長い九十九折りの道をひたすら下りる。
九十九折りの一つ一つが異様に長い。
次のカーブまでどこまで続くのか、このまま永遠にまっすぐ行くのか、と思わせるような巨大ジグザグ道だ。

少しずつ土の色が変わって黒みを帯びてきて斜面に緑が現れだした。

見上げてみると、かなり大きな石もゴロゴロしている。
あれが転がってきたら、と思うとかなり恐ろしい。
落石を起こさないよう再度気を引き締める。

緊急避難所。

朝からの雲がだんだん広がりふんわりと空を覆い始めた。

ずううううっと見えていた山中湖もかなり大きくなってきた。

七合目にはトイレあり。

まだまだ続くよまっすぐな道。

シェルターをいくつかくぐって

ついにお馬さんの待つエリアまで来た。
ここで力尽き心折れてお馬さんのお世話になる方もいるだろう。

登山道を登っていく人たちが見えた。
みんな、がんばってね!
もうすぐ登山道との合流点だ。

登山道との合流地点。

久しぶり(たったの2日だけど)に見る健気な花たちよ。

富士山安全指導センターを通過。
ここまで下りると安心感が漂う。

なんたって登山時はなぜか気づかなかった派出所もあるし。

樹林帯の緑が嬉しい。

一昨日はこのあたりでゾンビのような人たちとすれ違ったっけなあ。
昨夜はゆっくり小屋で休み、今日は下りてきただけの私は元気いっぱい。
体力のなさをカバーするため2泊にして良かった。

スバルライン五合目に無事帰ってきた。

小御嶽神社神社にお礼参り(と腹ごしらえ)

コインロッカーに預けていた荷物を回収し、冨士山小御嶽神社へ。

無事に登頂・下山できた報告をしお礼を伝える。

土産物コーナーの方へ行くと、私を覚えていてくれたおにいさんが
「お帰り!登れましたか?」と声をかけてくれた。

「無事に登頂できました!」
と元気に伝え、再び暖かい蕎麦を注文。
とってもきれいなトイレを借り、空いていたので着替えもさせてもらった。

宿泊施設もあるそうなので、もしも、、もしも、もう一度登ることがあればここで前泊するのはいいなあ、と思った。

これから登るという富士講の方たちが休憩中で、
「この後は天気が荒れそうだ。いい時に登ってよかったねえ」
「独りで登ってきたの?えらいねえ」と褒めて?いただいた。
白装束にわらじ履きで映画のロケみたい。

またもやお茶をたっぷり注いでくれるおばあさんに天気も良く素晴らしかったことを伝えると
「3日間ずっとお天気が良いなんて珍しい。
神様に挨拶して、ちゃんとお礼参りにも来たからよ」
と頷いていた。

お礼参りに来たから3日間晴れていたというのは時系列的にムリがあるのでは、と思ったけど、このような心掛けだから神様がお守りくださったのよ、ということだろう。

「みんなね、『下山後も必ず寄りまーす』っていうけど絶対来ないのよ」

・・・下山後にお参りに来る予定がない人は、
適当に「また来まーす」って言うのはやめましょうね。

そういえば富士山の全景を見ていなかった!と気づき、食後は境内の裏手へ行ってみた。

どーーーん

今日はしっかり頭のてっぺんも見せてくれた富士山。
ありがとう、富士山!
あのてっぺん=日本で一番高いところに自分が立っていたなんて不思議な気分。

それにしても。

頭に雪をいだいていない富士山はやはり
・・・誰?
って感じだなあ。